子供の頃、誰しもが物を数える時に「い〜ち、に〜、さ〜ん」と声を出し、指差しながら数えたことだと思います。大人からすれば何てことのないことかもしれませんが、実際の物の数と声に出している数とを一致させることは簡単ではないんですね。僕は幼児教室もやっていますので(こちらにそれに関する記事があります)、先日実際に幼児相手にやってみたのですが、物の数以上に数え過ぎてしまうケースが見受けられるんです。算数では1対1の対応と呼びますが、これは生活の中でも練習することが可能です。使う物はおもちゃでも良いし、お菓子でも構いません。風呂の中でもできますね。正確に数を数える練習は、本当に何気ない日常でも数多く練習する機会があります。
もう少し大きくなると、兄弟姉妹、友達と同じ数ずつ分けるということもするようになると思います。過不足があれば数の調整をしたり。子供は意識していないでしょうが、これは計算の基礎となる部分ですね。この段階で計算そのもののやり方を子供に教える必要はなく、自然な形で下地を作っていく。逆に言えば、こういった子供にとっては遊びの中で得られるであろう経験を全くさせず、発達段階を無視して大人のエゴでもって計算の理屈を教え込もうとしたところで、それはいずれ大きな歪みを伴って返ってくるように思います。計算ができるより、遊びの中から数的センスを学ぶ時期だからです。
小学生で足し算や引き算を習った後、例えば菓子屋で100円を渡して好きなように買ってみてと言うと、子供はできるだけたくさん買おうとする傾向があるように思います。ただし、渡された資金の中でできるだけたくさん買おうとすれば、計算する必要性が生じます。こういった機会を生かすことができれば、机に向かった計算練習より、ある意味で効果的な計算練習と言えるかもしれません。小学校高学年や中学生で極端に計算速度の遅い子に聞いてみたことがあります。
僕「100円もらったら、ちょうど100円か100円に近くなるように計算してお菓子を買えるだけ買おうとしたことないの?」
生徒「足りなかったら追加で親からお金をもらえばいいだけじゃないですか」
これは実話ですが、とても貴重な機会を自ら放棄してしまっているように思うんですね。そうじゃないだろう、と。確かに、消費税分くらいは仕方ないとは思いますが、最初から計算することを面倒がって、足りなくなったら追加でもらうことを前提としていてはせっかくの生きた計算練習の場となり得ないのです。実にもったいない。
小学校5年生で習う割合を苦手とする子は大変多いですが、これとて買い物を通じて学ぶことが可能です。スーパーに行けば、◯◯%オフ、◯割引といった値札が付いていることは決して珍しいことではないので、値引き後の値段がおおよそいくらになるかをその場で計算できるようになれば、割合分野の苦手克服にも十分に寄与するでしょう。しかし、またこれも実話ですが、次のようなことを平気で言ってしまうようになると、割合分野の苦手克服以前に大人になったら簡単な数字のトリックに見事に騙されるようになると思うんです。
僕「15%オフと2割引のどちらが安いかもちろんわかるよね?」
生徒「いずれにしても安くなるってことだから、どっちでも良くないですか?」
それ以上は聞きませんでしたが、この生徒の場合、15と2という2つの数字を見ただけで15%オフの方が割引率が高いときっと言ったでしょうね。数字の大小にしか着目できないために、大事なところを見逃してしまうのです。
数字上のことばかりになってしまいましたが、生鮮食品売場は地理の勉強の場でもあると思うんです。日本は非常に多くの生鮮食品を輸入に頼っています。野菜、肉、魚。これらには産地が表示されていますから、国名を覚えたり、地図を広げる機会を提供してくれます。例えば、鶏肉はブラジル産をよく見かけます。過去にはアジア諸国からの輸入が多かったのですが、鳥インフルエンザの影響もあってブラジルからの輸入が増えたという経緯があります。同じように牛肉でも、BSEの問題によって一時はアメリカ産牛肉の輸入がストップしていたこともあり、その間オーストラリア産などと接することが増えました。産地を調べるだけではなく、何故この国からの輸入が多いのか?という点を掘り下げていくと、自然と学ぶことが多くなると思うんですね。
以上のような少ない例からだけでも、僕達の生活の中は学びに溢れていることがわかると思います。それをどのように生かしていくかは人それぞれ。机に向かうばかりが勉強ではありません。普段の生活の中で接していることの多くに学びが潜んでいます。そういったことも想像しながら、全方位に興味関心のアンテナを張っていきたいものですね。